多くの言語と同様、日本語にも「発音は同じだが、意味は違う」言葉があります。これを「同音異義語」といいますね。
そしてさらに、「発音が同じ、意味は似ているけど微妙に違う」という、なんとも厄介な言葉も存在します。
”同音似義語”とでも形容できるでしょうか。細かいニュアンスや使うべき場面がとても似ているので、誤用が頻発してしまうのです。
そんな言葉の代表例が、「現れる」と「表れる」。
違うということは知っていても、どう違うのかを忘れてしまいがちです。どちらか迷って調べた経験が私にもあります。
今回は、現れると表れるの意味や使い方の違いや使い分けについてまとめてみました。
現れると表れるの違いとは?
もともとは同じ言葉
「現れる」と「表れる」この2つの言葉の共通点を見てみましょう。
まず「広辞苑」では、同じ「あらわれる」の項目の漢字表記に「現れる」と「表れる」の両方が併記されています。
もうひとつ「明鏡国語辞典」では、両者が別々の項目になっていますが、「同語源」であると記されています。
つまり、現れると表れるは、もともと同じ言葉だったようです。
古語辞典に「あらはる」の項目がありますが、おそらくこれが語源でしょうね。
そして共通するのは、「隠れていたり、その時点まで無かったものが、確認できるようになる」といった意味をもつ、ということのようです。
現れると表れるの違い
では次に、現れると表れるの違いに話を進めましょう。
そもそも「現」と「表」の漢字それぞれの成り立ちですが、
「表」…毛皮を着衣のいちばん外側に”出して”着る
これがもとになって作られた文字です。後者は少しややこしいですが、前者の「見える」というのがキーワードになります。
そして結論を言うと、
具体的な姿や形となって見えるもの、客観的に観測できるものに使う言葉
「表れる」
思考や感情など、目には見えず、主観的にしか捉えられないものに使う言葉
となります。
主語、つまり「あらわれる何か」が、
- 見えるか、見えないか
- 客観的な事実か、主観的な感覚か
と、簡単に言ってしまえばそこが両者の違いですね。
それでは、文章中での使い分け方について、もう少し細かく具体的に覚えていきましょう。
現れると表れるの使い分けの例
現れると表れると使った例文を挙げてみます。
これはどちらでしょうか?
お分かりかとは思いますが、この場合はやはり「現れる」が正解です。彼の姿が誰の目にも見えるようになるわけですから、「現れる」が適切です。
正解は「表れる」です。思いは目に見えません。主観的な表現です。
少し紛らわしいケースです。「数字は見えるのか?」と考えてしまいますが…
正解は「現れる」です。数字であれば、認めるのが嫌でも観測できてしまいます。「影響が現れる」「能力を現す」なども同様です。
これはどうでしょうか?ちょっとイジワルですが、先ほどの例文を改変してみました。
正解は「表れる」です。ややこしい構文でも主語は変わっておらず、「(画家の)思い」です。「作品という形をとって」というのも、その文を書いた人の主観的な比喩表現でしかありません。
実は英語でも…?
良く調べてみると、英語でも「あらわれる」を表現するときは少しややこしいです。
日本語の「現れる」に相当する表現が「appear」や「show up」など。そして「表れる」は「seem」を使うなどです。
いずれにせよ、「あらわれる」の主語について日本語と同じような区別をするようですね。
◇Basic English Vocabulary – SEEM
※英語のレクチャーの動画です。「さすがに関係ないでしょ!」と思うかもしれませんが、今回の話題についてなかなか参考になりますよ。
ホワイトボードの下のほうに、単語「seem」についてこんなことが書いてあります。
「Not necessarily true」つまり「必ずしも事実とは限らない」、「したがって」というと少々飛躍しますが、「seem」とよく似た「表れる」は、「事実とは限らない場合に使う言葉」であるとも表現できるでしょう。
「現れる」と「表れる」の両者をどう区別して使い分けるか?
要点は、
「見えるか、見えないか」
「客観的な事実か、主観的な感覚か」
です。
この2つのチェックポイントが、迷ったときの助けになってくれそうですね。
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